『春の箱根を食べに行こう。』
〜オモシロ歯ばなし

<たかのこういち(著)>
<松本隆治(絵)>

 

海老名から箱根って、思ったより近いのよ。祖母が笑う。

「レンタカーを借りれば、家族だけで行けるしね」。

祖父と祖母、祖母の娘夫婦、その二人の子どもたち、6人で強羅の富士屋ホテルに向かっている。

「雄二くんが運転してくるんで助かる」。祖父が、後ろの席でのんびりくつろいでいる。子どもたちは、マイクロバスの中をきゃあきゃあ言いながら走り回る。

「ほらほら、パパは運転してるんだから、危ないでしょ」。娘が言ってもまるで聞かない。

小田原厚木街道を抜けると、箱根湯本駅前に出る。平日なのに観光客が多い。30分ほど休んで強羅に向かう。山道だ。富士屋ホテルは、創業明治11年の老舗で4星ホテル、箱根でも一流ホテルとして名高い。

「今日はおじいちゃんがいるから、ミキも誠も、美味しいものをたくさん食べなさい」。祖母がにこにこ顔で孫に言う。入り口の左側に、ジョン・レノンと小野洋子が滞在した別棟がある。

「チャップリンもたしかあそこに泊まったらしい」。パパが言う。こいつは祖父がいなければ簡単にはこれないな。まるでお城のような別棟を見上げて、パパが大きく息を吐く。

 

「旬の味は最高ですね。やはりゲンキな歯だと味覚も違うでしょうね」。宮川院長に聞く。

「ええ、虫歯の怖いのは、痛いだけでなく、もっと重大な病気につながります。味覚にも影響しますよ」。

宮川院長の願いは、「海老名の歯をゲンキにする」ことです。