『赤いスニーカーは、歯医者がキライ。』
〜オモシロ歯ばなし

<たかのこういち(著)>
<松本隆治(絵)>

 
走っちゃダメよ。ほらほら転ぶから。

お祖母ちゃんが笑いながら叱る。

 

今年から幼稚園に通う美代ちゃんは、広いショッピングモールを走り回る。

「ほら、お祖母ちゃんの言うことをきいて」。若いママが声をかける。

怒ってはいない。

しょうがないわね、と苦笑い。

「あったわね、春よこい、という歌。歩き始めたみよちゃんが、おんもに出たいと待っているって」。祖母が言い、

「そうね、みよちゃんね。うちの美代ちゃんも赤い鼻緒のジョジョじゃなくて、赤いスニーカー履いて、春を待ってるのね」。

いまにも雪が降りそうな寒い日の午後。「あら、パパはどこかしら」。

「本屋さんよ、きっと。ここの本屋さん、コーヒーが飲めるから、お気に入りなの」。

美代ちゃんが、二人のそばを駆け抜ける。

「ほらほら、転ぶから。幼稚園が楽しみなのね」、と祖母が言い、「歯医者さんの予約、何時だった」と、ママに聞く。

「3時よ。いま2時半だから、そろそろ行かなくちゃ」。

「歯医者さんがキライなのかしらね」と、祖母。

「歯医者さんが好きという人はいないもの」と、美代ちゃんの姿を追いながらママが言う。

 

「そうなんですよ」。宮川院長が、複雑な表情で言う。

「お子さんは虫歯になりやすいから、定期診断が大切です。ですから、だれでも気軽に寄れる歯科医院、おもしろいといわれる歯科医院を目指しています」。

海老名の歯を守ります。宮川院長は、自信ありげに胸を張った。