<たかのこういち(著)>
<松本隆治(絵)>
先生、結婚しちゃうの?
小学生の少年が、担任の女性教師に聞く。
「ぼく、お医者になってお金持ちになる。だから、ぼくのお嫁さんになって」。
真剣な眼差し。
「ふふふ、先生、おばあさんになっちゃうわ」。
女性教師が嬉しそうに笑って、少年の肩に手を置く。
少年は無口になった。
女性教師と目を合わせない。
成績も落ちた。
「初恋ね」。
少年の母が、ポツリと祖母に言う。
「そうかい、いい勉強になるね」。
祖母は、ちょっと切ない顔をして、微笑んだ。
やがて少年は、明るさを取り戻した。
成績も戻った。
塾に行く途中、女性教師と結婚相手の青年が、商店街で仲良く買い物をしている姿を見たのだ。
「お祖母ちゃん、真っ白い歯で笑ってるんだ、先生の恋人」。
そう言って、祖母を見上げる。
「ほう、白い歯ねえ」。
祖母が、少年に聞いた。
「白い歯の人は、いい人なのかい」。
うん、大きな口を開いて笑ってる。
あんな風に笑う人は、絶対にいい人だ。
ああ、この子は無理にそう思おうとしているのだ。
祖母は、いっそう切なく思った。
「そうかい、じゃあマコトもきちんと歯を磨いて、いい人にならなくちゃね」。
祖母は、孫はいい勉強をしたんだ、と思った。
「それは言えますね」。
えびな東口歯科の宮川院長は言う。
「口の中には700種類以上の菌がいます。白い歯は、ちゃんと歯磨きする、きちんとした性格の人と言えるでしょう。男の子の初恋は、お母さんか先生ですね」。